きゅっと締めて、手ずからあげて

 きっかけは、存外交流のある鬼とマアナ――この場合の「交流」とは概ね鬼がマアナにお菓子をあげているの意味だ――の間で、鬼が高校時代に受けていた家庭科の調理実習が話題になったことだった。
「何つくったの」
「割と色々ありましたよ? 鮭のホイル焼きとかブラウニーとか……。あ、ピザを作ったこともありますね」
「……ピザ、食べたい」
「……作ります? 天使さんと一緒に」
「作る」


「というわけだね」
「は? パス」
「これアタシ戦力外じゃなぁい?」
 鬼とマアナから天使と幽霊に話が上がり、その上で幽霊が卓組全員を集めて告げた台詞に対する初っ端の反応がこれだった。一瞥で幽霊から視線をそらした魔女と、ひらひらと自身の爪を見せる狼とが速攻で抜け、そして二人そろって悪魔を見やる。
「……待て待て待て、これ俺が作る側に回る感じか!?」
「当たり前じゃないの、鬼ちゃんと天使ちゃんとマアナちゃんの3人にだけさせるつもり?」
「今まさに銀と魔女が抜けたよな? つーか幽霊にもさせろよ」
「できねぇだろアイツ」
 端から戦力に換算されていない幽霊が、テーブルを指さす。
「俺は財布係だから。材料は買ってきてあるよ。後エプロンも」
 結果的に、悪魔はなんやかんやで調理班に回る羽目になった。

 色違いでお揃いのエプロンを選んだ天使とマアナが、互いに相手のエプロンの紐やバンダナの紐を結んでやっているのを見ながら、鬼も適当なサイズのエプロンを手に取った。バンダナを付けるのも調理実習を思い出させて、鬼は少しばかり笑ってしまった。
(懐かしい)
 それに、こういうことが出来るのは楽しいかもしれない。魔女も、なんだかんだ同じ場所にはいてくれるし。……とんでもない事態が起きないか、視界に入れていないと不安だという可能性もあるが。


 さて、ピザ作りである。
 本格的に行くなら生地から作るか、という話にもなったが、生地を広げるいわゆるピザ回しはコツがいるし、大体往々にしてそういう時、人は天井にピザ生地を貼り付けてしまうのだ。故意でもミスでも。そんな理由で以て、生地作りは今回は取りやめとなったのだった。
 幽霊が購入してきたピザ生地を鬼が1枚、天使とマアナで1枚、悪魔が1枚獲得し、トマトソースを塗った上で思い思いにトッピングを乗せていく。
「やっぱ肉か?」
「……野菜も乗せた方がいい気はしますが」
 ピザにおおよそ使いそうな具が並べられているのを前に、鬼と悪魔はまず肉の選定をしている。一方、天使とマアナはパプリカなどの野菜を手に取っていた。
「彩りが綺麗になるように飾ろうね、マアナ」
「……うん、がんばるね、スウ」
 鬼自身も生地作りに拘っているわけではなく、天使やマアナも楽しそうにトッピング予定の野菜やらソーセージやらを包丁で切っているからいいのだろう、と調理にこそ参加しなかったものの、近くで見ていた魔女は結論付けた。要するにあれは天使とマアナが一緒に何かをする、といった部分が重要なのであって、細かい内容は何だって構わないのだろう。

 天使が、中の種を取り薄く切ったピーマンを花の形になるように並べているのを見たマアナも、同じようにトッピングをしていく。そうして、他の野菜も含めて散らしていれば、彩り鮮やかで綺麗なピザが出来上がる。
「楽しいね」
「たのしいね」
 言葉が重なり、お互いの顔を見やった後、天使とマアナはそっくりな笑顔を零したのだった。

「だっさい、センスない、バランス悪い」
「そこまで酷評するなら、後で食うなよな!」
「鬼ちゃんは……ハイカロリーねぇ」
「? はい、肉は美味しいので」
 調理側には回らなかったものの、近くで様子を見ていた狼が悪魔と鬼に絡みつつ――鬼の方にもちょっかいを出しているのは、基本的に幽霊へのからかいを兼ねている――そちらも卒なくトッピングを終え。
 オーブンで焼かれたピザは、その日の卓組の昼食となった。

天使とマァナがおそろいのエプロンと三角巾つけてきゃっきゃとはしゃぐところが見たかった、などと供述しており……。