かくして適材適所と相なるか

 今回の依頼は、比較的珍しいことに魔女からのものだった。

 卓組に依頼を持ってくるのは、幽霊がダントツで多い。次点で多いのが狼で、悪魔と魔女が持ち込んだ回数が同程度。鬼と天使は所属年数も含めて依頼を持ってくる立場になったことはなく、つい最近仲間入りしたマァナも同じくといった割合だ。悪魔は、行方不明だった期間が長かったが故の依頼回数の少なさであるため、実際の所の依頼頻度でいくと悪魔の方が多くすらある。
 そんなわけで、卓組のアジトたる廃カジノの中央で、珍しくも依頼者となる魔女が一枚の写真と資料を指先でトントンと叩きつつ、説明をしているのだった。

「……で、この富豪が持ってる情報が欲しいってワケだ」
「あれ、でも情報を抜くのであれば、それこそ魔女先輩の専売特許では?」
 軽く依頼内容を説明した魔女に、鬼が不思議そうな表情を浮かべる。卓組で情報収集をメインで担うのは魔女で、狼や悪魔が持ち込む依頼のほとんどは魔女に情報収集を頼むものであったからだ。
「そりゃデジタル方面の情報なら、魔女が強いんだろうけどな」
 その質問に魔女が答えるよりも早く、悪魔が口を開く。
「パソコンでもスマートフォンでも、機械にデータが入ってんなら魔女が自分で抜けばいい。じゃあ魔女が抜けなくて、こうしてここに依頼を持ってくるのは、それは魔女じゃ抜けない……アナログで保管されてるってことだ。だろ?」
「あぁ、そうだよ」
 深々と溜め息を付き、同意を示した魔女が鬼の方を見やりながら、さらに説明を続ける。
「徹底したアナログ主義者から情報抜くのは、労力の割に面倒くせぇんだよ」
 魔女曰く”携帯電話の操作も秘書任せの耄碌爺”は、大事なことは全て手帳に書き付けており、伝達の際も基本的には手書きのメモを渡す徹底ぶりなのだそうだ。機械を使うのは最低限なのもあり、周囲からは「機械嫌い」とすら称されるほど。
「それだと秘書の方、大変そうですねぇ」
「ね、ほんと……」
「しかも一応付いてる監視カメラの類も、型落としたボロみたいなもんだぞ」
「低解像度だと、画像処理してもページ読み取るのも困難だよなぁ」
「なるほど……」
 資料を覗き込みながらのんびりと感想を零す天使とマアナや、やり取りをしている鬼、悪魔、魔女を横目に、ソファで足を組んでいた狼が、ようやくといった様子で口を挟んだ。
「鬼ちゃんの疑問も解消されたところで。魔女ちゃんの依頼は分かった。で、そうなると物理的に盗ってくるってことになるから、あたしが呼ばれてるのも分かった。……で、あたしが聞きたいのは、なぁんで、あたしたち3人の前に、ペアルックよろしく服が畳まれてるのかしら? ってことなんだけど?」
 狼が指し示す先。テーブルの上には、フォーマルなパーティードレスと小物が置かれている。――狼と、天使と、マァナの目の前に、だ。

 狼から問われた魔女は、面倒くさそうな表情で幽霊を見やった。視線を向けられた幽霊が説明を引き継ぐ。
「そう、情報を物理的に取ってくる、っていう依頼だからね。僕が狼と天使とマァナを出す作戦を立てたんだ。……今度その富豪が開くパーティーに、親子のふりをして潜入してもらおうと思って」
「親子ぉ? 年齢的には合ってんでしょうけど、それで天使ちゃんとマァナちゃんと一緒になるのはどういう理屈だって聞いてんの」
「まず1つ。年齢もそうだし、君たち3人は髪の色も近いから、比較的怪しまれにくい。2つ目。今はまだ天使とマァナを別々の仕事に振り分けるよりは、一緒にしておいた方が良いと思うから。3つ目。それを踏まえた上で、狼、君と組ませておくのが良さそうってところだよ」
「はぁ、そういうこと……」
 一つ一つ指を立てつつの幽霊からの説明に、天使とマァナは相槌を打っているし、狼は一つ溜め息を付いた。悪魔が戻ってきてマァナが加わった今、卓組の新しい依頼遂行の形を模索する、というのも含まれてはいるのだろう。天使も些かそうだが、マァナは特に、表の世界に完全に戻すというのが難しい立場なのは事実である。
(……でも、それ言って鬼ちゃんの方気にするなら、もうちょい誤魔化せばいいのに)
 "親子"のあたりでちら、と鬼の方に視線を向けた幽霊と、あまりそれ自体は気に留まっていないのか、ターゲットの顔写真をしげしげと眺めている鬼を見ながら、狼は少しだけ笑いを噛み殺した。

「この洋服、かわいいですねぇ」
「……スゥに似合いそう」
「マァナにも似合うと思うよ?」
「そう? ……嬉しい」
 天使とマァナは、互いのために用意された洋服を広げて楽しげにじゃれあっている。ひどく微笑ましい光景ではあるが、その雰囲気を切り替えるように幽霊が言葉を続けた。
「さっきも言った通り、狼、天使、マァナの3人は富豪の屋敷で開かれるパーティーに潜入して、情報が書かれた書類を盗んできてもらうよ。一応パーティーだから、荒事は避けてね。
鬼と悪魔は、もしもの時に3人を回収して力ずくで脱出する要員。だから一応パーティー会場には、入ってもらうことになるよ。僕と魔女は近くで待機しての後方支援、ってところかな」

悪魔が戻ってきて、マァナが加わった新生卓組での動き方確認がてら依頼こなすのが見たい。