狭義的宝箱

「……」
 いかにも”几帳面”といった字で、綺麗に埋まったクロスワードパズル。それを眺めていた間は、ちろりと辺りを見回した後、何気ない仕草でするりとそれを手に取ると休憩室を後にした。

 間は時折、「大貫が書いた何かしら」をこっそりと職場からちょろまかして持って帰ってきていた。勿論、機密に関わるような書類は取っていないし、大貫の私物にも手は出していない。あくまでも持って帰ってくるのは、後で処理するためにひとまず書きつけた付箋、走り書きのメモ、折り畳んだあれやこれや。大貫が後から「些末な物」として処分するであろう物だけだ。
 クロスワードパズルも、大貫は休憩中に手慰みとばかりに解いているが、途中で終えたり解き終えたものについては何もしていないので、間の中では「ちょろまかしていいもの」に分類されている。
 とはいえ、間としてはどうしてそういう行動をしているのか、と問われれば首を捻らざるを得ない。何となく欲しいから貰ってきた、としか言いようがないのだ。大貫が書いている、という部分が大事なのであるので、別段手書きの何かしらを収集したいというわけでもないし。

「……へぇ、これ応募したら炊飯器当たるかもなんだ」
 自宅へと持ち帰ってきた雑誌をぱらぱらと捲りつつ、間は大貫が解いていたクロスワードパズルのページにぺたりと付箋を貼った。別段他のページ部分には興味がないので、ある程度かストックが溜まれば、該当部分以外は処分するためだった。
(大貫くん、クロスワードパズル割と好きみたいだもんなぁ)
 今まで幾度となく持って帰ってきた、解きかけで放置されたものや、完成したものを思い返しながら間は小さく鼻歌を歌う。綺麗にファイリングしているそれは、だいぶページ数も増えてきている。大貫の字は綺麗で読みやすいが、ちらほらと癖が見えるのが、間からすれば面白い。
 そんな大貫は、間がこのようなことをしているとは露ほども思っていないのだろう。まぁ、知っていれば過去のあれこれを含めて考えても、問い詰めてくるに決まっているわけで。つまりは、間が黙ったままであれば、大貫が気が付くことは暫くないのだろう。

(……あ、でも。これ言った時の大貫くんの反応気になるな。言ってみようかな)
 大貫はどんな表情で、間に何を言うのだろう。怒るのだろうか。呆れるのだろうか。何故だか、間が処分を受けて戻ってきてからも、変わらず間と共にいる大貫のことを考えつつ。
「……ふふ、」
 間は機嫌良く笑い、雑誌をぱたりと閉じてテーブルの上へと置いた。

間くんの手癖が悪くて、ちょろまかしているの可愛い。大貫くんのちょっとしたものを収集しているのは、ある意味での執着です。