アイスたいみんぐっ

 ぐ、と押し込もうとしたスプーンから軋みが伝わってきたものだから、間はスプーンに込めていた力を一旦緩めた。目の前の白く滑らかなそれには、数ミリほどの溝しか付いていない。そのことに間が小さく息を吐くと、隣の座席から些か呆れたような声が向けられた。
「間、君、もう少し早く買っておくべきだったんじゃないか?」
 ちらりと間が視線を向けた先、大貫は同じく車内販売で購入したホットのブラックコーヒーに口を付けている。大貫の台詞に、間は「だってさぁ」と言葉を返す。
「食べたくなったタイミングで食べないと」
「……はぁ、そうかい」

 諸事情で特急新車両お披露目イベントへと参加することになった――純然たる業務命令だ――大貫と間は、特急の始発駅である名古屋まで新幹線で向かっていた。朝に登庁し、最終確認をした上での出発だ。おそらく昼前には名古屋に着き、そこで早めに昼食を摂ることになるであろうというのは、タイムスケジュールからも分かっていたわけだが。
 つい数分前に車内販売でバニラアイスを買い求めた間は、新幹線特有の非常に硬さを保ったアイスと格闘を繰り返しているのだった。
「……君、そうやってこの間も食べたいタイミングで注文したものを食べるのに苦労して、後で慌てて店を出る羽目になったじゃないか」
「そうだけど……。でもアレは僕は『先に行ってていいよ』って大貫くんに言ったのに、大貫くんが残ってたんじゃん」
「君も、いないと、職務に、支障が、出るから、仕方なく、待ってたんだ」
「はいはい」
 大貫の苦言を気に留めた様子もなく、間はスプーンでアイスをつつき続けている。その様子に大貫は大きく溜め息を付くと、自身の持っていたコーヒーのカップを揺らしつつ問うてみる。
「私のコーヒーの熱で、溶かしでもするかい」
「……えぇ~……」
「いやなんで、私が突拍子もないこと言い出したみたいな反応なんだ」
「そういう気分じゃない~」
「あぁ、もう……」
 間は一旦アイスを攻略するのを諦めると、ポケットからスマートフォンを取り出した。目的地である名古屋までは、まだ暫くかかる。それならば、これから参加する車両についてでも調べておこうと考えたのだ。大貫もまた、呆れた気配を滲ませつつも別に調べ物を始める。
 そうして新幹線は、何事もなく二人を名古屋へと運んでいくのだった。


 ――だからこそ。流石にこの時の大貫も間も、一切想像などしていなかったのだ。名古屋で乗り換えた新車両の中で、事件の渦中に巻き込まれることになろうとは、露ほども。

シンカンセンスゴクカタイアイスと格闘する間くんが見たかった。