朝7時に起床。朝食はトーストと一週間ごとに決めている任意の添え物を用意し、コーヒーを一杯。食べ終えたら食器は食器洗い乾燥機に入れ、顔を洗い、歯を磨く。着替えはいつも通りのシャツにネクタイ、ベストとスラックス。
その後、パソコンで一通り情報をチェックしてしまえば、凪にとって朝の内にすべきことは終了してしまった。後、生活に必要なことといったら、昼食と夕食を摂ることくらいだろう。
「部屋の掃除……はするほどでもないしな」
凪は食事をとっていたリビングを見回してみたが、部屋には埃も汚れも見えはしない。定期的な清掃で清潔さを保たれた部屋は、そもそも凪が物を追加で持ち込まないせいで変わり映えなどないのだ。誰を招くでもないが故に、インテリアの類も乏しいリビングから視線を外した凪は、ふと思い出した。
「……あぁ、そういえば」
衣替えはもう少し後であるし、買い替えなければならないほどに摩耗した服もないが。昨年冷感シャツを試しに1枚購入してみたところ、夏場も割合過ごしやすかったのだ。対して外出をしない身とはいえ、あって困るものではないだろう。
「買いに行くか」
予定を決めた凪は、財布とスマートフォンと鍵だけを持ち、玄関へと向かう。どうせだから、昼食もその時に摂ってしまえばいい。そうして、凪はカチャリと鍵を掛けると、目的を果たすために街へと向かったのだった。
ワイシャツを無事に購入することが出来た凪は、そのまま昼食を近くの店で摂ると自宅へ戻るために道を歩いていた。平日とはいえ、昼下がりの街はごった返しており、凪も時折身体をひねりながら人ごみの中を抜けていく。
……すると、よそ見をしていたのかふらふらと歩いていた誰かと、凪は真正面からぶつかってしまった。凪は僅かにたたらを踏んで後退した程度で済んだが、相手が持ち歩いていた本が道路へと落ち風がページを捲りあげる。
「……っと」
「うわわ、ごめんなさい」
「いえ、こちらこそ」
(声が若い……若白髪か?)
凪がぶつかった相手は、凪とさして年齢の変わらないように見える青年だった。いっとう目立つのは、その白髪。凪としては、随分としっちゃかめっちゃかになっている服装が気にならないでもなかったが、赤の他人にそうそう指摘をするものではないだろう。
そう考えながら、凪は道端に落ちた本を拾うと、相手へと手渡す。
「どうぞ」
「ありがとう~」
他に何も落としていないことをざっと確認し、凪は今度こそ自宅へと戻り始める。
――凪が歩き始めて数秒ほどした時。先ほど通り過ぎた場所で、何かざわめきが起きたような気はしたものの。凪は振り返ることなくその場を後にした。
凪は五日くんと出会わなかったとしても、それなりにそれなりの生活を送るのですが、ほんの少しそこに彩りも明るさもないのだと思います。