クローシュで隠してあげる

 間の視線がメニュー表のとある場所で、うろりと彷徨ったのが、向かい合って座る大貫にははっきりと分かっていた。大貫が視線を向けていることに気が付いていないのか、間は暫しページをぱらぱらと捲ってみたり、他のメニューへと視線を向けていたものの、視線は結局の所そこに戻ってきてしまう。
 大貫としてはそのまま眺めていてもよかったのだが、休憩時間は有限であるわけで。仕方がないなと言わんばかりに口を開いたのだった。
「注文したいのなら注文すればいいじゃないか」
 大貫の声に視線を跳ね上げた間は、大貫の発言の意図を掴みかねたようで、瞳を一つ瞬かせる。そのことに大貫は小さく息を吐きつつ、間が開いているメニュー表の左側――ケチャップを使ったオムライスとデミグラスソースのハンバーグランチを、指先でとんと叩いた。
「これ、食べようか迷っているんだろう?」
「……い、いや別に?」
「先程から、ずっとここと他のページを繰り返し見ているじゃないか」
 大貫がそう告げれば、間は僅かにうぐ、と押し黙る。

 ケチャップのオムライスやデミグラスのハンバーグやミートソースパスタだとか、はたまた苺のショートケーキやデコレーションの多いカップケーキ、チョコレートチップを練り込んだクッキーだとか。間がそういったものをより好んでいる、ということは大貫からすれば存外分かりやすいものだった。そして、間がそれをどうにも隠したそうであるということも。
 勿論、間は好き嫌いが殊更多いというわけでもないので、日替わりのおろしハンバーグを食べることもあるし、焼き魚定食を絵注文することだってある。だが、間が楽しげに食べているのはどちらかといえば、先に上げたような料理のときであるのは確かな事実なのだ。

 大貫が暫くじっと見つめていると、間は一つ溜め息を付く。
「……なぁんで、分かるかな」
「分かるさ。そういうところは」
「えぇ~」
「気にせず注文すればいいさ。私は君が好きなものを食べている方がいいと思うが」
 間が大貫へと視線を向ける。
「そう?」
「そうだよ。食事は楽しくあるべきだろう」
「……まぁ、それもそっかぁ。うん、じゃあ僕こっちにしよ」
 間は視線を僅かに緩めると、大貫が指し示したメニューをとんとんと叩いてみせた。それを確認した大貫は、店員を呼ぶためのボタンを迷うことなく押したのだった。
「ちなみに大貫くんは?」
「私はにんにくを使った一口ステーキ定食だな」
「……戻ったら絶対口の消臭アイテム使いなね」

間くんの味覚は若干子供っぽいのですが、なんとなーくたまに気恥ずかしくなる。