塔の瓦礫の上に座るか

 ドアを開けて入ってきた人物が、室内を見回してから僅かに機嫌を落としたことを如実に理解した間は、内心で苦笑した。
「涼くん、ごめんね? 僕も上司からの"指示"となると、そうそう逆らえなくって」
 間がそう告げれば、相手――青鷺涼は「あーあ」と声を零しつつ、間の向かいのソファへと腰掛ける。
「シンイチローさんいないのかぁ~。俺が情報あるから来てね、って言ったのに」
「『僕は別件で忙しいから、間クン行ってきて』て言われちゃった」
「そうかぁ~、単に情報だけだとそうなっちゃうんだ。……もうちょっと別の言い方したら、きちんと来てくれると思う?」
 ちろり、と青鷺が温度の低い視線を間に向けてきたのに対し、間は己の心の中で諸々を天秤にかけた結果、僅かに傾いた方へと従った。
「まぁ……真野さんじゃないと渡せない情報、ってなったら、真野さんが来ざるを得ないんじゃないかな」
「なるほど~、ミツさんありがと!」
 先程から一転してにこり、と笑ってみせた青鷺に、間も笑みを返す。


 ――青鷺涼。
 青鷺組の跡取りでありながら、青鷺組の壊滅のために警察へと積極的に協力してくれる人物である。内部からの情報というのは、警察としても大層有り難いもので、青鷺は特に繋ぎ止めておきたい協力者の内の一人だった。
(まぁ、真野さんは涼くん苦手っぽいんだけど……)
 定期的に行っている青鷺からの情報提供を受け取った間は、そのまま青鷺とファミレスへと訪れていた。「かき氷かアイス食べたーい」という青鷺の要望に応えた形だ。
 青鷺が真野を気に入っているのとは正反対に、どうやら真野は青鷺を苦手としているようで、こういった情報提供の場には大抵間が遣わされることとなる。青鷺の機嫌を極度に損ねるのも、ということで真野が直々に向かうこともあるが、それは比較的稀だ。間としては、青鷺は割合好みの部類に入るので、青鷺と会うこと自体はいいのだけれども。
 目の前で苺がふんだんに乗ったかき氷をシャクシャクと崩している青鷺を見ながら、間もまた注文したメロンパフェをスプーンで掬っては口に運んでいく。そうしていると、不意に青鷺がかき氷から顔を上げ口を開いた。
「そういえばミツさん、この間一緒にいたのって同僚の人?」
「うん? この間って?」
「ほら、お互いちょっとすれ違った時」
「……あぁ!」
 間はしばし考え込んだが、すぐさま思い出した。青鷺が組の者と歩いていたこともあり、声をかけることなく通り過ぎた時のことを言っているのだろう。その時、間が共に歩いていたのは大貫だった。
「そうそう、同期だよー。同じ班だけど、僕とは違ってあちこち行かないから、涼くんは見かけたことないかもね」
「なるほどねー。……あ、ミツさん付いてるよ」
「ん?」
 す、と青鷺が手を伸ばしてくると、間の口元へと触れる。離れた指先には、生クリームが付いていた。青鷺がそれをナプキンで拭うのを見ながら、間が軽く謝罪をする。
「おっと、涼くんごめん」
「ぜーんぜん。ん、これ美味しかったー」
「それは良かった」
 青鷺がスプーンを置いたのを確認した間は、伝票を持ち立ち上がる。そろそろ別れなければ、青鷺も都合が悪いだろう。
「ミツさん、ご馳走様。じゃあ、またねー」
「ん、またねー」
 間はファミレスの前で手を振って青鷺と別れると、提供された情報を真野へと報告すべく、警察署へと戻っていったのだった。

年下なのもあり、涼くんに少し甘い間くんが修羅場クリエイトな話。