路肩に停め、尾北たちとやり取りをしていた大貫たちの車の横を、大幅なスピード違反の車が駆け抜けていく。思わず顔を見合わせた大貫と間の沈黙を割くように、尾北から次の報告が入った。
『先ほど入った情報だ。……組の奴らが車で逃走、お前たちがいる方面に』
「いえ、今私たちの横を通り抜けましたね」
『……とんだ偶然だ』
「大貫と間で追います。大貫くん、ランプ」
「あぁ」
二人はてきぱきとシートベルトを締めると、間がハンドルを切り一気にアクセルを踏み込む。そして大貫がランプを取り付けたのを確認したところで、さらにスピードを上げた。
「間、奴らどちらに向かっていると思う?」
「……この先に倉庫が立ち並んでる。半分くらいは使ってないからそこかな」
「そこから船でも出すつもりか?」
「あの感じは、そこまで用意周到じゃないと思うけど」
ぽんぽんとやり取りをかわしている内に、先ほど大貫たちの車を追い抜いた車の姿が視認出来るようになる。そこで間がさらにアクセルを踏むものの、前の車は前の車で当然ながら更にスピードを上げてきた。
「埒が明かないな……、スピードを落とさせたいところだ、が、」
「大貫くんって銃の腕前ビミョーだけど、投擲なら割といけるよね?」
「間、君ついでと言わんばかりにそれ言っていくの止めないか? いや、まぁ投擲はそれなりだけれども。それが?」
「ダッシュボード」
「……なるほど?」
ハンドルを切りつつ端的に告げた間の台詞に、意図を察した大貫が少しだけ口の端を上げた。
倉庫街の中を駆け回るチェイスは、追いつくことも引き離されることもないまま随分と続いていた。しかしながら、ある程度か走り回っていれば、近道やショートカットというのも気が付くというもので。間たちの車は倉庫の合間をすり抜けたことで、暴力団員の乗った車の前方へと回りこむことに成功した。
暴力団員たちは慌ててUターンをしようとするが、流石に間に合いはしない。
「今」
「了解」
あらかじめ助手席側の窓を開けていた大貫は、間の合図に合わせて勢いよくフロントガラスへと、ダッシュボードに入っていた蛍光黄色の撥水カバーを広がるように放り投げた。フロントガラスの半分ほどを覆ったそれによって、急に視界を奪われたことに動揺した車は、蛇行し倉庫の壁へと勢いよく激突する。
「大貫くんナイス~」
「それはどうも」
それを確認した間は、ブレーキを踏み車を停める。そして大貫が尾北へと連絡を入れ始めたのだった。
同期にはカーチェイスして欲しいし、言葉少なに分かりあってほしいし、それはそれとして軽口は叩きあってほしい。