「あ~この疲れ、プールの授業の後を思い出す……」
「確かにな」
僅かな振動を与えてきつつも滑らかに道路を走る車の中で、南部と西藤はひそひそとそんな会話を交わしていた。「プールの授業の後」も何も、実際にVoyageの3人は撮影のためにプールに入ってきた帰りなのだが。気温こそそこまで高くはなかった上に、水着でプールに入っての撮影であったとはいえ、晴れた日差しの中で動き回っていたものだから、南部にしろ西藤にしろ東峰にしろ疲労困憊ではあるのだ。東峰はプールサイドでの撮影が多かったのに対し、南部や西藤は実際に泳ぐこともあっただけに尚更だ。
「東峰は……寝てるな」
「まぁ、涼が一番撮影長かった気がするし」
「やっぱり、メンバーカラー青だからだろうなぁ」
窓に反射する姿から南部たちの前の座席に座っていた東峰が眠っていることを確認した西藤は、さらに声量を落とす。その上で、南部の方へと身体を寄せてくるものだから、南部は己の心臓がドキリと跳ねたのを自覚した。
(た、ただでさえ、ちょっと前に西藤さんのこと好きなの、気が付いたばっかりなのに……!)
二週間前の出来事を思い出し、南部はじわりと顔に熱が上るような感覚を覚える。幸いにも、西藤は南部の変化に気が付いた様子はなく、そのまま言葉を続ける。
「今日、戻ったらダントレのつもりだったけど、止めとこうか」
「あぁ~確かに……これ以上疲れたら、逆に明日に響いちゃいそうですもんね」
「そうそう」
「あ、そういえば西藤さん」
「うん?」
「日焼けは大丈夫そうなんですか?」
南部はスタッフと西藤がかわしていた会話をふと思い出し、尋ねてみる。随分と心配するスタッフと裏腹に、西藤はけろっとした表情だったものだから、その対照的な反応が頭に残っていたのだ。南部の問いかけに、西藤は表情を少し崩し微笑む。
「あぁ、そのことか。大丈夫大丈夫。僕、どうも肌が赤くなりやすいみたいで。それで心配されてただけだよ」
「へぇ~……」
南部はつい、西藤の表情の方に気を取られ、曖昧な返事をしてしまったのだった。
その後も南部と西藤がぽつぽつと会話を交わしていると、不意に西藤の言葉が途切れ、南部の肩にぐ、と重みがかかった。南部が視線だけを動かせば、銀色の髪が視界に広がる。西藤も疲れの方が勝って、寝落ちしたらしい。
(これじゃ西藤さん首を痛めるんじゃ……)
南部がそう考えながら少し体勢を直してやろうとした時、ふわりと西藤の髪から塩素の残り香がした。
「……!」
匂いは簡単に、つい先程の記憶へと直結する。晴れやかな青空、太陽の光できらきらと光るプールの水面。そこに飛び込んで、濡れた髪をそっと耳朶にかけカメラに向かって表情を作る、西藤。
(うわ、うわ、うわ――……!)
芋蔓式に、西藤の水着姿やら、しっとりと濡れた髪やらを思い出してしまった南部は、叫びだしたような心地に囚われる。流石に東峰も西藤も起こしてはいけないという意識はあったので、何とかそれだけは抑えることが出来たものの。
急に跳ね上がった体温に、南部は自身の近くの冷房を強めたいやら、それによって隣で眠る西藤の身体を冷やしてしまわないかやらを、寮に到着するまでぐるぐると考え込む羽目となったのだった。
幻覚が具体的すぎた例。以下は概要
・ギャルゲ版iDol Never diE~Voyage~523卓編
・ギャルゲというが女体化ではない
・南部主人公
・東峰→北条→西藤→真中の順で、True開けばルート解放されていく
・西藤ルートでは序盤に本編と同じ事件が発生し、真中・北条が脱落済み
・真中ルートはBAD回避が鬼仕様のため、有志によるフラグチェックシートが公開されている