東京に戻ってきて以来、間には朝のルーチンが一つ増えた。リビングで間と向かい合った大貫が、真面目くさった表情で問う。
「間、今日の予定は?」
「んー、今日は図書館に行こうかなと思ってるよ。あと、夕飯は何食べたい?」
「鶏の照焼だと嬉しいかな。で、他に私に言うことはあるかい?」
「……あ、刈野に久々に会いたいって言われたから今日会うよ」
「……今朝とはいえ、報告が上がったので良しとしようか。刈野に宜しく」
「うん」
「みたいな」
「僕は何を聞かされてるんですか?」
カフェで向かい合った間に、「戻ってきてから大貫さんとはどんな感じなんですか」と問うて返ってきた言葉に、刈野は思わずツッコミを入れた。否、間の報告の腰の重さを直そうというやり取りなのだろうが、合間合間の惚気じみたやり取りが居た堪れない。そこは省略してくれないだろうか、などと考えていた刈野は、やり取りを反芻して疑問を抱いた。
「あれ、今、間さんって大貫さんと一緒に暮らしてるんですか?」
「うん。大貫くんが『丁度一部屋空いてるからおいで』って。いつの間にか広い部屋に引っ越してて、びっくりしたよ」
刈野の脳裏に「囲い込み」の文字がでかでかと浮かぶが、懸命にも口にはしない。間が気に留めていないのならば、いいだろう。間違いなく迂闊につつけば、馬に蹴られる。ただでさえ、今日会うのも今朝知られていたらしいので、次の日の出勤が怖い。会話記録全部書かされたらどうしよう、という気持ちだ。
「まぁ、間さんが元気ならそれでいいんですけど」
「刈野も元気そうで良かった」
今後はこの惚気みたいなのが刈野くんに降りかかる。