融ける、罰

「……さて、西藤ツバサくん? どうしてここに呼ばれてるかは、分かってるネバね?」
「……分かってるよ」

 ……合宿所から少し離れたところに設けられた『特別棟』。その中の一室で、西藤は床に正座する形でネバ太と向かい合っていた。
「うんうん、西藤くんは素直で良い子ネバね~。今日は、西藤くんと~真中くんの~喧嘩の罰として、こうして呼んだネバよ」
「うん、それは反省してるよ……」
 ぴょこぴょこと動くピンク色の生き物――恐らく生き物の筈だ――は、西藤の返答が満足だったのか嬉しげな動きをしてみせる。いや、声音もまた嬉しいのだろうな、といった軽やかさではあった。だが、顔の中央に陣取る無機質な黒々とした瞳。そこからは、何の感情も読み取ることが出来なかった。だからこそ、西藤はネバ太のことが苦手である。……わざわざ口に出そうと思ったことなどは、流石にないのだが。
「そ、それで? 僕への罰っていうのは、どういうものになるんだ?」
 そのままその瞳を見つめ続けていると恐ろしいことになってしまいそうな気がして、西藤はネバ太へと話しかける。窓はなく、ベッドと机しかない部屋ということは、ここは反省文を書かせるだとか、書き取りをさせるための部屋なのだろう。その割に机の上にはなにも置かれていなかったが、後からネバ太がどこからともなく出すのかもしれない。否、もしくはこの特別棟全体の掃除、という可能性もある。それならそれで身体を動かせる分、思考は紛れそうだ。そんなことをつらつらと考えていたものだから、ネバ太の口から出てきた言葉を西藤は聞きそびれた。
「…………ネバよ」
「えっ?」
「スライムでのおしおきセックスプレイネバよ~」


 その言葉が、西藤の聴覚へと届いたと同時。西藤の目の前にいたネバ太の身体が、一瞬でどろりと輪郭を失った。
「ひッ……」
 生理的に嫌悪感の募るような現象に、西藤が後ずさろうとする。しかし、正座をしていた体勢からではすぐさま立ち上がることなど出来ず、足を崩すに留まっていた。どろどろと蠢く物体は、そのまま床を這うように西藤の元へと近寄り。粘性を帯びた蛍光ピンクが、ずるりと西藤の身体を駆け上がり始めた。
「やめっ、やめろ! ネバ太!? なんで……っ」
『さっきも言ったネバよ? スライムでのおしおきセックスプレイネバ』
「意味が、分からな……っ、ゃ、触るなよっ」
 どこから聞こえているのか分からないが、ネバ太の声は西藤へと届いている。つまり、ネバ太はこの部屋の中にいる筈なのだ。……今西藤の身体を無遠慮に這いずる、蛍光ピンクの"何か"――ネバ太曰くの『スライム』――以外に。
 西藤はどうにか身体に張り付いたスライムを引き剥がそうとするが、それらは意思を持っているのか西藤の手から逃れるように服の下へと潜ってしまう。その上、それらが西藤の肌へと触れる度に、身体の内側にざらりと熱が溜まっていく。
「っ、ふ、…ダメ、だって……ばっ、」
『んー、時間は……まぁ、今夕方ネバし、明日は西藤くんお休みだから、全然問題ないネバね!』
「っ、ぁっ、触るな、っ! ネバ太、これが本当に罰なのか…っ?」
『さっきそう言ったネバよ??』
「……っ、ふ……っ」
 身体の上をスライムが滑る度に自身から漏れ出る、鼻にかかるような声が恥ずかしい。それならばいっそ口を塞いでしまおうか、と西藤が考えたのを読んだかのように、ぬるりと腕へと伸びたスライムが腕をひとまとめに拘束してしまう。……そして、際どい所へと触れた。
「ひぅ、…っ、ぁん、! ……~っ!」
『じゃあ、西藤くん頑張ってほしいネバ~』
 そのネバ太の声を合図にするように、今までのはただの戯れだったのだろう、本格的に行為が開始された。


「ぁ、ぁ、! っ、ゃッ、は、……んぁっ!」
 べしゃりと溶け落ちた際には、それほど質量があったように思えなかったスライムは、瞬く間に西藤の身体のあちこちを嬲っていた。胸に触れ、腹を撫ぜ、足をなぞるように伝う。……そして、脱がされることなくスライムに侵入された下着の中で、西藤のペニスを扱き、吸うような動き。
「…っ、ぁっ、! んんッ、ゃ、吸わな、…でっ」
 それら全てに、西藤の頭の中が快感で塗りつぶされていく。強い快感に襲われるたびに、びくり、と身体が跳ねるが、それでは快感を逃がし切るには至らない。自分のものとは思えない甘ったるい喘ぎ声が溢れ、閉じることの出来ない口から、だらだらと唾液が床に落ちていく。
「んっ…、ひゃ! ぁふ、っ……」
 ぐちぐちと部屋に響く粘着質な水音と、自分が身に着けたままの洋服の肌触りで、西藤は頭がおかしくなりそうだった。
「~っ! や、イく、…またイくから…っ、ダメ、だって、…やめ……! ぁっ、」
 そんな中、ぞくりと背を駆け抜けた刺激に、西藤は自身の三度目の絶頂を悟り、もぞりと藻掻く。だが、先程までと同じように、スライムは西藤の言葉を聞いて逆に吸うような動きを激しくし。そして。じゅ、と一際大きく吸われた瞬間。
「ぁ、――~~~~~~ッ」
 意識が真っ白に染まるような感覚と共に、西藤は射精した。西藤から吐き出された精液は、スライムが吸い取っているのか、どこかを湿らせたような様子はない。暫しの間を置いて、西藤は一瞬詰めていた息を吐き出し、ぐたりと床に身体を横たえる。じっとりと火照った身体には、床の冷たさが気持ちいい。
(3回も……イかされたし……これで、終わるかな……)
 そうして少しだけ目を閉じていた西藤は、身体に纏わりついたスライムがずるりと動いたことに気が付いた。
「……、っ?」
 ペニスに纏わりついていたスライムは、西藤の下着から出ることなく身体の後ろへと回っていく。…………後ろ?
「っ、なんで……!?」
『これで終わりだなんて、言ってないネバよ~』
 慌てる西藤に対し、のんびりとしたネバ太の声が返される。スライムが向かう先など、容易く検討が付いた。西藤だって、知ってはいる。男が挿れられる側になれば、"どこ"を使うかくらいは。相変わらず西藤の腕は拘束されたままであるため、抵抗は叶わない。
「ひっ、ゃだ、やだやだやだぁ……っ」
『西藤くん、子供みたいネバねぇ?』
 流石にそれは嫌だと、ぱさぱさと銀色の髪を左右に揺らしながら西藤が拒否を示すが、ネバ太の声は聞き分けのない子供を窘めるようなそれだった。ずるずると動いたスライムが、窄まりにねとりと質量を有したそれを擦り付ける。
「やだやだ、ネバ太、おねが、…挿れな……でっ」
『それじゃあ、おしおきにならないネバ』
 無情な声。

 ――ガツン。

「――ひ、っ」
 貫かれた衝撃で、一瞬また西藤の息が止まる。血の気がざっと引きそうなほどの衝撃。ぎちぎちと音が立つそれは、西藤に痛みしか与えてこない。はくはくと、口が動いたものの声も言葉も出なかった。
(痛い、気持ち悪い、痛い、やだ、はやくおわって、やだやだやだ、はやくはやく……っ)
 痛みでぼろぼろと涙を零している西藤に、ネバ太から気遣わし気な声が降ってくる。
『西藤くん泣いてるネバ? さっきの、痛かった?』
 西藤が必死にこくこくと頷く。だから、一刻も早く終わらせてほしい。そう、きつく目を瞑りながら祈った西藤に。絶望的な言葉が振り下ろされた。

『うーん、じゃあ、痛いのは流石に可哀想ネバから……。西藤くんがこれで気持ちよくなれるまで、続けるネバね?』
「…………えっ」


 その後。西藤が、『罰』から解放されたのは、深夜のことだった。

西藤くんがスライム姦されてるところが見たかった、と供述しており……。