絞り出される声と呻き声、啜り泣きを最後に、ブツリ、と訪れた意識の断絶。そこから北条が回復した時、北条の目の前には真中の姿があった。
(……夢かな?)
北条がぼんやりとそんなことを考えながら、真中の顔を見つめていると、真中の表情が不機嫌そうなものへと変わっていき、口を開く。
「……何だあれ」
「うん?」
「あんたらの議論」
「見てたのか」
「そうだよ! 見てたんだよ、どういう理屈かはさておき! で、何だあれ!」
「……と、いうと?」
真中の怒りの主題が見えずに、北条が首を傾げる。真中真也を殺した犯人を見つける議論は、見事西藤達3人たちが北条を指名したことで正解した。……まぁ、3人からすれば不本意極まりない結末だったのだろうが。北条としては、引導を渡される方がよほどマシだったので、構わなかったのだが。
「あんたもあんただが、西藤も西藤だ! 俺の気持ち、全然気が付いてなかったし、勝手にまた勝てなかったとか言われてるし!」
「まぁ確かに散々な流れだったな」
「それだけじゃない、もっと、こう、誤魔化せよ! 雑か!」
「うーん、否定は出来ない」
「大体……」
真中は本当に議論を全て見ていたのだろう、随分と細かいところまで言及している。そうしてギャンギャンと文句を言ってくる真中の姿を、北条は新鮮な気持ちで見つめていた。今までは、真中がそうして突っかかっていくのはおおむね西藤が相手で、北条にはそういう風な態度を見せてこなかったからだ。南部相手の真中はダンスレッスンで張り合っているといった感じだったし、東峰相手は……東峰の遠慮が大きかったように思う。
だからこそ、こうして真正面から突っかかってくる真中の姿を見て、不意に北条の中に、ぽつりと気付きが落ちた。
「……真中って、ちゃんと子供だったのか」
思わずそう零した北条に、真中がキッと睨みつけてくる。
「あったりまえだ! 何だと思ってたんだよ!?」
「……完璧で、カリスマ性があって、パフォーマンスも凄くて、文字通り僕たちの真ん中で輝くNo.1の星?」
「カリスマ性があるのもパフォーマンスが凄いのも否定しないが、」
「否定しないのか」
「俺は、あんたより……西藤より年下だぞ! そんな全部完璧なわけあるか! ばか! すかぽんたん!」
「どんな悪口だ、それ」
北条のツッコミで更に感情が昂ぶったのか、その場で地団駄すら踏んでみせた真中に、北条の口から笑いが零れ出す。
(……あぁ、そうか)
あの夜から議論の時まで、北条の頭の中は千々に乱れていたし、冷静ではなかった。だが、きっとそれよりも遥か前から、北条綾人は真中真也のことなど分かっていなかったのだろう。
――舞台の真ん中、光の中で輝く、手も届かない男なのだと思っていた。きっと、その背に届くとしたらNo.2の西藤くらいだろう、と。
そうして、逆光で何も見えない振りをしてしまったから、北条はあの夜に選択肢を間違えたのだ。
「終わってから気が付くだなんてな」
「……本当だよ。まぁ、俺もあんまり人のこと言えない気がするけど」
「確かに」
「あそこまで西藤が気が付いてないとか思わなかった」
「まぁ、それは……そうだな、うん、ほら」
「フォローしろよ」
さくさくとどこかへと歩き始めた真中の隣に並んで、北条も同じように歩き始める。ぱちり、と瞬いて北条に視線を向けた真中に微笑んだ。
「じゃあ、これから話をしてお互いのことを知っていこうか」
「……それでチャラ?」
「それを選ぶのは真中だから」
「あー、はいはい。そういうとこ。ったく、……」
お互い死んでから、仲良くなる切っ掛けが生まれる北条と真中いいよね!の感情